
開化の殺人
芥川龍之介

約12分・37ページ
大正の横浜。貿易商・陳彩は、妻・房子の不貞を告げる匿名の手紙に苦しむ。鎌倉の別荘で夫を待つ房子もまた、誰もいないはずの部屋で誰かの視線を感じていた。芥川龍之介が大正九年に発表した心理的な怪奇小説を漫画化。
結末まで書いています(ネタバレを含みます)
妻・房子の不貞を告げる匿名の手紙に苦しむ陳彩は、東京へ行くと偽って鎌倉の家に戻り、寝室の窓に男の人影を見る。手紙を書いていたのは房子の写真を隠し持つ書記・今西だった。寝室に踏み込んだ陳彩が見たのは、房子の亡骸と、彼女を手にかけたもう一人の陳彩の姿だった。物語は最後に、東京の活動写真館で『影』という映画を見ていた「私」の場面へ移る。
日華洋行の主人・陳彩は、鎌倉の家に電話して妻の房子に今夜は東京へ泊まると告げる。房子と出会ったカフェの夜、指環をめぐるやりとりを思い出していたところへ、書記の今西が一通の手紙を届ける。
手紙は、夫人が旧日の情夫と会っていると告げ、離婚を勧める匿名の忠告だった。陳彩は新婚のころ、房子が昔の男たちからの贈り物を「戦利品」と笑ったことを思い出す。里見探偵事務所の吉井から電話を受けた陳彩は、東京行きを鄭君に任せる。
鎌倉の別荘で、房子は婆やに、窓から誰かが部屋をのぞいていたと怯える。一週間前の夜、月明かりの寝室で、誰かが背後から見つめている感覚に襲われたのだった。二人が去った客間で、三毛猫が誰もいない戸口に体をすり寄せる。
横浜の宿直室で、書記の今西は桃割れに結った房子の写真を取り出し、幸福そうに微笑む。
終列車で鎌倉に着いた陳彩を、探偵の吉井が迎える。客は一人も来ず、監視は十一時二十分に終え、その後は上りも下りも汽車はないという報告を聞くと、陳彩は大股に歩み去る。
家へ向かう松林の路で、陳彩は忍びやかな靴音と、錠がかかっているはずの裏門の開く音を聞く。房子の名を呼んだとたん、二階の寝室に灯がともり、窓に女ではない人影が浮かぶ。陳彩は塀を乗り越え、寝室の戸に耳を当て、鍵穴から中をのぞく。
横浜では今西が写真をしまい、タイプライターで次の匿名の手紙を打ち始める。その顔は憎悪そのもののマスクだった。
破られた寝室の戸。部屋の隅に立つ陳彩は、房子の亡骸と、彼女の喉に指を埋めていたもう一人の陳彩を見る。「誰だ、お前は?」と叫ぶ陳彩に、もう一人は答えず悲しげに房子に寄り添う。やがて二人の陳彩はともに顔を覆って泣き出す。
東京。『影』という映画が突然消え、「私」は女と活動写真館のボックス席に座っていた。プログラムに『影』という標題はなく、女は寂しく微笑んで、お互いに『影』なんぞは気にしないようにしましょうね、と言う。
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横浜。
日華洋行の主人・陳彩は、今日も山と積まれた商用書類に目をさらしていた。
残暑の静けさを破るのは、戸の向うから聞えるタイプライタアの音だけだった。
この読切は全37ページ。続きは漫画ビューアで、スマートフォンでもそのまま読めます。
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結末に触れない紹介です
大正の横浜。日華洋行の主人・陳彩は、残暑の事務所で商用書類に向かいながら、鎌倉の家にいる妻・房子に「今夜は東京へ泊まる」と電話をかける。房子はかつてカフェの帳場にいた娘で、指環をねだられた夜の思い出は陳彩にとって幸福な記憶だった。しかし今、書記の今西が届けた一通の手紙は、夫人が昔の情夫と会っていると告げ、離婚を勧める匿名の忠告だった。陳彩は探偵事務所に妻を見張らせ、東京行きを人に任せる。一方、鎌倉の別荘では、医者に神経が疲れていると言われた房子が、窓の外から、そして鍵をかけた寝室の中から、誰かに見つめられているという感覚に怯えていた。終列車で鎌倉に降り立った陳彩は、探偵の報告を聞き、松林の路をひとり家へ向かう。夫の疑いと妻の恐怖が、横浜と鎌倉の場面を交互に重ねて高まっていく、全37ページの心理怪奇譚。
青空文庫の図書カードによれば初出は『改造』1920(大正9)年9月で、本文末尾には「大正九年七月十四日」の日付がある。物語は大正中期の横浜・鎌倉・東京を舞台に、卓上電話やタイプライター、終列車、活動写真館が登場し、映画を思わせる場面転換との関係が研究で論じられている。本漫画は、角ばった顔立ちと大きな黒い影を用いた現代的な作画で大正の洋装と和装を描き、寝室の惨劇は直接描かずに蚊帳や人物の背中で示している。
大正の横浜。貿易商・陳彩のもとに、妻・房子の不貞を告げる匿名の手紙が届く。一方、鎌倉の別荘で夫の帰りを待つ房子は、誰もいないはずの部屋で誰かの視線を感じていた。芥川龍之介の怪奇短編を漫画化。
結末には触れていません
横浜の貿易商・陳彩が、妻・房子の不貞を告げる匿名の手紙に苦しみ、東京へ行くと偽って鎌倉の家の様子を探る物語です。同じころ鎌倉の房子は、誰かに見つめられているという不安に怯えています。夫の疑いと妻の恐怖が、横浜と鎌倉の場面を交互に重ねて描かれます。
原文「私は今夜東京へ行くからね」漫画の3ページでこの場面を漫画で見る
夫人が貞操を守らず、昔の情夫と会っていると告げ、再三忠告したのに断固たる処置をとらない陳彩を責めて、離婚を勧める内容です。差出人は名を明かさず「貴下の忠実なる友」とだけ記しています。漫画では9ページで手紙の文面を見せています。
原文「貴下の忠実なる友より。」漫画の9ページでこの場面を漫画で見る
房子は一人でいると、誰かが自分の後ろに立って見つめている気がすると婆やに打ち明けます。一週間前の夜には、鍵をかけた寝室で電燈をつけても、目に見えない何者かの視線が顔に注がれていると感じ、声も出せずにいました。
原文「きっと誰かが私の後に立っているような気がするのよ」漫画の18ページでこの場面を漫画で見る
大正中期の横浜・鎌倉・東京です。原作は「横浜。」「鎌倉。」「東京。」という地名の見出しで場面を切り替え、横浜の日華洋行の事務所と宿直室、鎌倉の別荘と停車場、そして東京の場面が交互に描かれます。卓上電話、タイプライター、蓄音機、終列車など、当時の都市生活の小道具が登場します。
陳彩の回想によれば、房子はかつてカフェの帳場で勘定書きを書いていた若い女性でした。「いつ私に指環を買って下すって?」とねだる房子に、陳彩は「その指環がなくなったら」と答え、房子はその場で婚約の指環を外して投げ渡します。漫画では4〜6ページで描いています。
妻を疑う夫の嫉妬と、誰かに見られている気がするという妻の不安が、横浜と鎌倉で並行して描かれる、心理的な怪奇小説です。電話の会話や匿名の手紙、閉ざされた裏門や鍵穴からの光など、短い場面を積み重ねて緊張を高めていきます。
芥川龍之介(1892〜1927年)です。
初出は「改造」1920(大正9)年9月です。
著作権の保護期間が満了した作品で、青空文庫で原文を無料で読めます。このページの「青空文庫・原作情報」から図書カードへ移動できます。漫画は原作をもとにした翻案のため、台詞や構成が原文と異なる部分があります。
読切の37ページで、約12分が目安です(1ページ18秒で計算)。登録不要で無料で読めます。
日華洋行の書記・今西です。今西は宿直室で房子の写真を眺めて微笑み、その後タイプライターで次の手紙を打ちます。原作はその顔を「憎悪そのもののマスク」と書いています。
原文「今西の顔はこの瞬間、憎悪そのもののマスクであった。」漫画の31ページでこの場面を漫画で見る
房子の亡骸と、彼女の喉に指を埋めていたもう一人の陳彩です。部屋の隅に立つ陳彩と寸分も変わらない姿でした。漫画では房子の亡骸を直接描かず、蚊帳の向こうの手と、二人の陳彩の姿で示しています。
原文「もう一人は陳彩であった。部屋の隅にいる陳彩と、寸分も変らない陳彩であった。」漫画の32ページでこの場面を漫画で見る
それまでの物語が、「私」が活動写真館で見ていた『影』という映画だったことが示されます。ところがプログラムに『影』という標題はなく、「私」は夢を見ていたのかと首をかしげます。連れの女は、その写真なら自分も見たと言い、お互いに『影』は気にしないようにしようと結びます。
原文「お互に『影』なんぞは、気にしないようにしましょうね。」漫画の36ページでこの場面を漫画で見る
横浜(関内付近)おおよその位置
横浜。 日華洋行の主人陳彩は、机に背広の両肘を凭せて、火の消えた葉巻を啣えたまま、今日も堆い商用書類に、繁忙な眼を曝していた。
作中で日華洋行の所在地は書かれていません。港町横浜の中心部、関内一帯の目安です。
鎌倉(鎌倉駅周辺)おおよその位置
鎌倉。 下り終列車の笛が、星月夜の空に上った時、改札口を出た陳彩は、たった一人跡に残って、二つ折の鞄を抱えたまま、寂しい構内を眺めまわした。
陳彩が終列車で降り立つ停車場の付近を目安にしています。陳彩の別荘は海に近い松林の中とされ、所在地は特定されていません。
原文・底本・校正情報を作品ごとに記録します。

AI が作成した案内キャラクターで、本人の発言ではありません
「僕は芥川龍之介。東京で育ち、古典や説話に材を取った短い小説を書いてきた。夏目漱石先生に認められて、文壇に出ることができたんだ。」
「下人の行方は、誰も知らない。」——『羅生門』原文より
「はじめてなら『蜘蛛の糸』を。短いけれど、最後の一場面まで目が離せないはずだよ。」『蜘蛛の糸』へ
つながり:夏目漱石(師と弟子)菊池寛(学生時代からの友人)太宰治(芥川賞のゆかり)堀辰雄(師と弟子)谷崎潤一郎(「小説の筋」論争)新美南吉(同じ『赤い鳥』)魯迅(魯迅が翻訳)エドガー・アラン・ポー(ポーの評伝を執筆)萩原朔太郎(田端の隣人)森鴎外(観潮楼を訪ねた)泉鏡花(全集と弔辞)岡本かの子(小説のモデル)
作家相関図を見る(読むほど線がつながります)