
桜桃
太宰治

原作: 斜陽 / 著者: 太宰治
約9分・29ページ(全14話)
敗戦後、没落した旧華族の娘かず子が、母と弟の喪失、既婚の小説家への恋、古い道徳との衝突を経て、自らの生を選び取ろうとする太宰治『斜陽』全14話の漫画化。

ひらり、ひらり。
正式な礼法とは、まるで違う。
それでも私には、これが『ほんもの』に見えた。
第1話は全29ページ。続きは漫画ビューアで、スマートフォンでもそのまま読めます。
続きを無料で読む伊豆の山荘の朝、かず子はスウプを優雅に口へ運ぶ母を「ほんものの貴婦人」と見つめ、南方から戻らない直治を案じる母の悲しみに触れます。庭で見つかった蛇の卵を焼いた罪悪感は、卵を捜す母蛇と美しい母の顔を重ね、自分の胸の蛇が母を傷つけるという予感へ変わっていきます。
敗戦の年の暮れ、かず子と母は西片町の家を手放し、伊豆の山荘へ移ります。母は高熱に倒れるものの村医者の診療で回復し、雪の日に東京への未練と「よみがえり」を語ります。冬から春へ、世間と離れて暮らす母娘。畑づくりを前に、かず子は復活を疑い、ノートへ「恋」と一字だけ書きます。
伊豆の山荘で、かず子の火の不始末から風呂場の薪が燃え、村人たちの手で鎮火されます。村へ謝罪に回った彼女は厳しい叱責を正面から受け、翌日から畑仕事へ。配給の地下足袋に触れ、戦時中の立川で雨に濡れながら徴用され、ヨイトマケを担った日々を思い返します。
衰弱する母のもとへ、南方にいた直治が生きているとの知らせが届きます。しかし阿片中毒と多額の借金、底をつく家計が明らかになり、和田の叔父の提案をめぐって母娘は激しく衝突。互いの愛情を確かめて和解し、着物を売って三人で暮らす決意を交わした先に、直治の帰還が本当の地獄の始まりを告げます。
南方から帰還した直治は、舌を病む母へマスクを勧め、それを「美学療法」と名づけます。母は直治の言葉を信じてマスクを着け続けますが、直治は東京の友人や文学の師匠に会うと言って去ります。残されたかず子は二階の荷物から「夕顔日誌」を見つけ、借金、階級への嫌悪、偽善への怒りと孤独が刻まれた直治の過去を読み始めます。
直治の「夕顔日誌」を読み進めたかず子は、麻薬代を工面していた六年前を思い返します。弟の仲介役だった小説家・上原二郎を京橋のアパートに訪ねた彼女は、初めての酒場で不思議な安らぎを覚えます。帰りの階段で起きた突然の出来事は、夫婦の疑惑、死産と病、家族の負担へとつながり、かず子は現在の直治の苦しさと「不良」の優しさを考えます。
梅雨の伊豆で鳩の死と蛇の跡を見たかず子は、上原二郎へ「M・C」と記した第一の手紙を書き、二度、三度と届けます。返事のないまま夫人のいる上原邸を訪ね、酔った画伯から上原の行方を聞いた彼女は、中年の女にも女の生活があると理解し、家を買う者ではなく恋人として自分を引き受けてほしいと迫る手紙を結びます。
かず子は六年前の上原との出会いと地下階段の記憶を運命として思い返し、手紙に「あなたの赤ちゃんがほしい」と書きます。返事を待つ日々、母との軽口に励まされた彼女は、札つきの不良として古い道徳へ挑み、M・Cの意味を「マイ・チャイルド」と明かします。
三通の手紙に返事がないまま、母は高熱と咳に襲われます。東京から来た三宅老先生は結核と命の危険をかず子に告げ、彼女は母の前でそれを隠しながら看病を続けます。死を暗示する夢と嵐の夜、ローザ・ルクセンブルクの本、十二年前の友人との別れを思い返したかず子は、人間は恋と革命のために生れて来たのだと確信します。
母とかず子は深夜に語り合い、母の病は進んで手と顔がむくみ、食事も呼吸も難しくなります。直治も帰郷して母の前で涙を見せ、庭には黒い蛇が再び現れます。秋の黄昏、かず子と直治に見守られながら、母は日本で最後の貴婦人として静かに息を引き取ります。
母の葬儀後、かず子は恋を戦い取るため上京し、上原の家で妻と娘に出会う。妻の親切に心を揺らしながらも、白石、柳やと酒場を追い、西荻窪のチドリで変わり果てた上原を見つける。騒がしい酒宴のなかで手紙をめぐる気配を読み取り、上原が誰より自分を愛していると確信する。
チドリを出たかず子は上原と冬の夜道を歩き、星空の下で恋を問い詰める。画家・福井の家に身を寄せた二人は、上原の荒んだ暮らしと病を前に互いの孤独を告白し、かなしい恋を成就させる。夜明けにかず子が幸福を告げたその朝、伊豆では直治が帰らぬ人となっていた。
直治が姉かず子へ遺した手記は、貴族として生まれた羞恥と、労働者にも粗野にもなりきれない孤独、軍隊と薬物依存の記憶を告白する。ある中年洋画家の妻「スガちゃん」への報われない恋を書き、母の形見の麻の着物を棺に入れてほしいと頼む。夜明け、直治は「僕は、貴族です」と手記を結ぶ。
母と直治を失ったかず子は、冬の山荘で上原への最後の手紙を書く。妊娠を確信し、上原の人格や責任には頼らず、生まれる子と古い道徳に抗うと宣言する。直治のために一つの願いを残し、「M・C マイ、コメデアン」と結んで、太陽のように生きる未来へ踏み出す。
STORY GUIDE
結末に触れない紹介です
敗戦後、旧華族の家を失った二十九歳のかず子は、気品を失わない母と伊豆の山荘で暮らしています。南方から弟の直治が戻る一方、家計、薬物依存、母の病が家族を追い詰めます。かず子は直治の師で既婚の小説家・上原二郎への恋を手紙に託し、古い道徳と自分の罪悪感に抗おうとします。母の死、上原との再会、直治の遺書を経て、かず子は失われた身分や他者の救済に頼らず、生まれる子とともに太陽のように生きる意志を選び取ります。
原作は敗戦直後の1947年に雑誌『新潮』で発表され、旧華族制度の解体、配給と物価、帰還兵、戦後の家族と道徳の揺らぎを背景にしています。本漫画では昭和二十年代初頭の住居、衣服、食事、交通、照明、医療、農作業を調査し、没落を豪華さや貧困の記号だけにせず、減る食事、売られる着物、暗い電球、働く手、変わらない礼節で表現します。
太宰治の長編『斜陽』(1947年)を全14話で漫画化した連載です。敗戦後、旧華族の家を失ったかず子と母、弟の直治、小説家の上原が、それぞれのやり方で没落の時代を生きます。「斜陽族」という言葉を生んだ作品です。
結末には触れていません
この作品が評判になったことから、戦後に没落していった旧華族や上流階級の人々を指して使われるようになった言葉です。
作品中でかず子が語る有名な言葉です。古い道徳に抗い、自分の意志で生きようとするかず子の決意が込められています。
太宰治(1909〜1948年)です。
初出は「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~10月1日です。
著作権の保護期間が満了した作品で、青空文庫で原文を無料で読めます。このページの「青空文庫・原作情報」から図書カードへ移動できます。漫画は原作をもとにした翻案のため、台詞や構成が原文と異なる部分があります。
全14話・393ページで、通して読むと約118分が目安です(1ページ18秒で計算)。1話ずつ区切って読めます。
母の死、上原との再会、直治の遺書を経て、かず子は上原の子を身ごもったことを知ります。身分や他人の救いに頼らず、生まれる子とともに古い道徳と闘いながら太陽のように生きていく意志を、上原への最後の手紙に記します。
原文・底本・校正情報を作品ごとに記録します。