
あやつり裁判
大阪圭吉

約12分・40ページ
火葬場を見下ろす丘の上の脳病院で、院長が脳を抜かれて殺され、三人の患者が消えた。トントン、歌姫、怪我人。三人の癖と院長の口癖から、松永博士が事件を読み解く昭和の本格探偵小説を漫画化。
結末まで書いています(ネタバレを含みます)
赤沢脳病院で院長が脳を抜かれて殺され、三人の患者が姿を消す。松永博士の助言で「歌姫」と「怪我人」は捕まり、線路では頭を轢かれた「トントン」が見つかる。だが博士は屍骸の柔らかな足裏に気づき、病院に戻って院長の屍体を調べる。その足にはトントン特有のタコがあった。「怪我人」の包帯を解くと、現れたのは死んだはずの赤沢院長だった。
火葬場への道を見下ろす丘の上の赤沢脳病院は、経営難で患者も看護人も去り、三人の患者だけが残っていた。焦燥にかられた院長は、患者に「脳味噌をつめ替えなくっちゃア駄目だ」と浴びせるようになる。
窓辺で右足の爪先を鳴らし続ける「トントン」、女の着物でソプラノを唄う「歌姫」、包帯で顔を覆い院長にだけ包帯を替えさせる「怪我人」。三人はそれぞれの営みに励んでいた。
ある暑い朝、老看護人の鳥山宇吉は裏木戸が開いていることに気づく。唄も足音も聞こえず、三人の患者は消え、院長の姿もない。木戸の内側には砕けたガラス瓶と赤黒い飛沫、引きずった跡が残っていた。
跡をたどった三人は、病舎外れの便所で、パジャマ姿の院長が頭から脳味噌を抜き取られて倒れているのを見つける。
吉岡司法主任は市立精神病院の松永博士を訪ねる。博士は、院長の口癖が「脳味噌をとれ」ではなく「つめ替えろ」だったことに注目し、脳を抜いた男が次に何をするかを示唆する。
夕方、火葬場裏の林で唄い出した「歌姫」が、拍手とアンコールのやりとりで捕まる。血がついていないことから博士は犯人ではないと判断する。夜、銘酒屋の女将が血だらけの男を目撃し、M川の橋では包帯の「怪我人」が捕まる。
線路の脇で、頭を轢き砕かれた「トントン」の屍骸が見つかる。主任は恐ろしい結末だと嘆くが、屍骸の柔らかな足の裏を調べていた博士は、まだ結末ではないと言い、院長の屍体の所在を尋ねる。
夜の病院で院長の屍体の足を調べると、足裏は大きなタコで硬く、親指は軽石のように固かった。宇吉はそれがトントンの足だと叫ぶ。廊下で格闘の末に「怪我人」が捕まり、包帯の下から死んだはずの赤沢院長が現れる。
博士は真相を語る。院長はトントンを殺して自分に見せかけ、殺しておいた怪我人を線路で轢かせてトントンの仕業に見せ、自分は怪我人に化けて捕まった。だが線路の屍骸の足にタコがなかった。博士は保険金と夫人との落ち合いの計画を推し量り、教えられるところが多々あると結ぶ。
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M市の郊外、火葬場へ行く道路を見下ろす赤土山の上に、赤沢脳病院はあった。
旧式の平屋建は、大きな蜘蛛が這いつくばったような形だった。
その朽ちかけた板塀の内には、目に見えぬ瘴気のように、不吉な空気が色を深めていた。
この読切は全40ページ。続きは漫画ビューアで、スマートフォンでもそのまま読めます。
続きを無料で読むSTORY GUIDE
結末に触れない紹介です
M市の郊外、火葬場へ向かう道を見下ろす赤土の山の上に、大きな蜘蛛のような私立の赤沢脳病院が建っている。三代目の院長は経営難に苛立ち、患者に「脳味噌をつめ替えなくっちゃア駄目だ」と浴びせるようになっていた。残る患者は三人。窓辺で右足の爪先を鳴らし続ける「トントン」、女の着物で古い流行歌を唄う「歌姫」、頭から顔まで包帯を巻いて寝てばかりいる「怪我人」。ある暑い朝、老看護人の宇吉は裏木戸が開いているのに気づく。三人は姿を消し、病舎の外れでは院長が無惨な姿で倒れていた。突然凶暴になった者が市内へ逃げ込んだら――。吉岡司法主任は市立精神病院の松永博士に助言を求める。博士が注目したのは、院長の口癖の言葉の違いだった。三人の癖、拍手とアンコール、包帯についた藁屑。小さな手掛かりが積み重なる、全40ページの本格探偵譚。
初出は『新青年』1936(昭和11)年7月号。作中の私立脳病院は、院長の父祖が京都岩倉村の家庭看護にならって開いたとされ、市立の精神病院ができて患者を失っていく。1919年の精神病院法以後、公立病院の整備と私立病院の経営難が併存した時代の空気がうかがえる。M市・M川は作品内の匿名の地名。本漫画は昭和初期の地方都市郊外として描き、遺体や傷は布や影で示している。
火葬場を見下ろす丘の上の赤沢脳病院で、院長が惨殺され、三人の患者が消えた。犯人は誰なのか。市立精神病院の松永博士が、三人の癖と院長の口癖から事件を読み解く。大阪圭吉の本格探偵小説を漫画化。
結末には触れていません
私立の脳病院で院長が脳を抜き取られて殺され、三人の患者が逃げ出した事件を、市立精神病院の松永博士が推理する探偵小説です。院長が患者を叱るときの口癖や、三人それぞれの癖が手掛かりになります。
原文「脳味噌をつめ替えなくっちゃア駄目だ」漫画の4ページでこの場面を漫画で見る
院長が患者を叱るときに使ったのは「脳味噌をとれ」ではなく「脳味噌をつめ替えろ」だったという点です。博士は、言われた言葉どおりに利巧な人の脳味噌を抜き取った患者が、次に何をするかを考えるよう主任に促します。
原文「『つめ替えろ』と『とれ』とでは、大分違いますよ」漫画の19ページでこの場面を漫画で見る
夕方、火葬場裏の雑木林から唄い出した「歌姫」に、私服巡査が近寄って拍手を送りました。歌姫は一度唄いやめたものの、また安心して唄い出し、拍手とアンコールを繰り返すうちに距離が縮まり、案外わけなく捕えられました。
原文「今度は直ぐにアンコールだ。再び拍手。そしてアンコール。」漫画の22ページでこの場面を漫画で見る
M市の郊外、火葬場へ向かう道路を見下ろす赤土の山の上に建つ、私立の「赤沢脳病院」です。院長の父祖が京都岩倉村の家庭看護にならって開いた小さな病院ですが、三代目の今は患者も看護人も減り、院長夫妻、老看護人、女中と三人の患者だけが暮らしています。
窓辺で右足の爪先を鳴らし続ける「トントン」、女の着物で流行歌を唄う髯面の「歌姫」、頭から顔まで包帯を巻いて寝てばかりいる「怪我人」の三人です。いずれも中年の男で、本名ではなく病院でつけられた呼び名で呼ばれています。それぞれの癖が、のちの推理の手掛かりになります。
脱走と惨劇から始まる怪奇色の濃い発端を、専門家の博士が一つずつ論理で解きほぐしていく本格探偵小説です。漫画では残酷な場面を直接描かず、黒い影や布、人物の表情で緊張を伝えています。
大阪圭吉(1912〜1945年)です。
初出は「新青年」博文館、1936(昭和11)年7月号です。
著作権の保護期間が満了した作品で、青空文庫で原文を無料で読めます。このページの「青空文庫・原作情報」から図書カードへ移動できます。漫画は原作をもとにした翻案のため、台詞や構成が原文と異なる部分があります。
読切の40ページで、約12分が目安です(1ページ18秒で計算)。登録不要で無料で読めます。
線路で見つかった「トントン」の屍骸の足の裏が柔らかかったからです。トントンはいつも右足の爪先で羽目板を叩き、畳がくぼむほど足をこすりつけていたので、足にはタコがあるはずでした。
原文「その柔かな両足の裏をひねくり廻していた博士が、不意に顔をあげた。」漫画の29ページでこの場面を漫画で見る
死んだと思われていた赤沢院長自身です。院長はトントンを殺して自分のパジャマを着せ、顔が判らないように脳を抜き取りました。さらに殺しておいた怪我人を線路で轢かせてトントンの仕業に見せかけ、自分は包帯を巻いて怪我人に化けていました。
原文「死んだ筈の赤沢医師が、蒼い顔をしてつッ立っていた。」漫画の36ページでこの場面を漫画で見る
松永博士の推測では、贋の怪我人として病院から姿を消したあと、夫人が病院を整理して金に代え、生命保険金を手にして片田舎へ移り、そこで死んだはずの院長と落ち合う計画でした。博士は、無邪気な患者たちを囮に使ったこの仕事に好意はもてないと語ります。
原文「きっとあの院長には、莫大な生命保険もついてますよ」漫画の39ページでこの場面を漫画で見る
原文・底本・校正情報を作品ごとに記録します。

AI が作成した案内キャラクターで、本人の発言ではありません
「私は大阪圭吉。愛知県の出身です。昭和の初めに、手がかりと論理で謎を解く本格的な探偵小説の短編を、いくつも書きました。」
「品川の駅で、すぐ前の席へ、その無遠慮なお客さんが乗り込んで来ると、クルミさんは、すっかり元気をなくしてしまった。」——『香水紳士』原文より
「まずは『香水紳士』を。列車の中の小さな謎を、少女が機転で解き明かします。」『香水紳士』へ
つながり:甲賀三郎(デビューを後押し)
作家相関図を見る(読むほど線がつながります)