
吾輩は猫である
夏目漱石

原作: 夢十夜 / 著者: 夏目漱石
約9分・29ページ(全10話)
死にゆく女の百年の約束、無になれない侍の夜、背中の罪、蛇になる手拭、鶏が鳴く前の悲劇、木の中の仁王、行き先のわからない船、鏡の中の往来、今に帰らない父を経て、第十夜では庄太郎が女に誘われ、青草原の絶壁と無数の豚の悪夢に追い込まれる。夏目漱石『夢十夜』を、同じ夢見手が十の夜を渡る連作幻想漫画として再構成した完結編。

死にゆく女に百年待つよう頼まれた十夜は、墓の傍で赤い日を数え続ける。
和尚に侮られた侍の十夜は、次の刻までに悟りを得ようと座禅に向かう。行灯、朱鞘、時計の音が、無になれない心を追い詰める。
父の姿の十夜は、目の見えない青い子を背負って雨の田圃道を進む。森の杉の根で、子供は百年前の罪を静かに告げる。
子供の十夜は、老人が手拭を蛇に変えるという見世物を追って柳の下から川岸へ向かう。老人は箱を抱えたまま水へ入り、とうとう戻らない。
捕虜となった十夜は、死ぬ前に恋人へ一目会いたいと願う。白馬で駆ける女は篝火へ迫るが、天探女の偽の鶏声が運命を狂わせる。
護国寺の山門で運慶が仁王を彫る姿に見入った十夜は、木の中に埋まったものを掘り出すだけだと聞き、自分の家の薪に鑿を入れる。
行き先のわからない大きな船で孤立する十夜は、船員の歌、泣く女、星を語る異人、ピアノと歌に触れながら、黒い波へ近づく取り返しのつかない恐怖を知る。
床屋の六つの鏡に映る往来を眺める十夜は、庄太郎と女、白い床屋、帳場格子の女、動かない金魚売を通して、見たいものが決して直視できない都市の怪に触れる。
戦の気配の中で父が帰らず、若い母は三歳の子を連れて夜ごと八幡宮へ通う。子の「あっち」「今に」という言葉と御百度の祈りは、父がすでに殺されていたという悲しい事実へ沈んでいく。
庄太郎は立派な女に誘われ、長い電車で青草原の絶壁へ連れて行かれる。飛び込むことを拒んだ彼は、無数の豚の鼻を七日六晩叩き続け、最後はパナマ帽だけが皮肉な余韻を残す。
STORY GUIDE
結末に触れない紹介です
ひとりの夢見手が、十の夜ごとに別の時代、身体、関係へ置かれます。百年待つ約束、悟れない侍、背中の子ども、川へ消える老人、恋人を待つ捕虜、仁王を彫る運慶、行き先のない船、鏡の往来、帰らない父、豚の群れ。筋のつながらない夢は、待つこと、罪、死、見ることという感情で響き合います。漱石の連作を全10話でたどります。
原作は明治末から大正初期の日本社会と知識人の孤独を背景にした夏目漱石の作品です。近代化の中で揺れる個人の倫理と不安を、時代の衣食住を踏まえた漫画として描いています。1908年に新聞連載された十篇の夢物語で、明治の都市、古代、未来が論理を越えて並ぶ実験的な連作です。
夏目漱石が1908年に新聞連載した『夢十夜』を、全10話で漫画化した連載です。「こんな夢を見た」で始まる十の夢が、時代も人物も変えながら、待つこと、罪、死、見ることをめぐって響き合います。高校国語の教科書でも読まれている作品です。
結末には触れていません
第一夜、第二夜、第三夜、第五夜の書き出しに使われる言葉で、作品を代表する一文です。
死にゆく女が「百年待っていて下さい。きっと逢いに来ますから」と言い、夢見手が墓のそばで待ち続ける話です。教科書でもよく採られる夜です。
筋は独立していますが、同じ夢見手の視線や、時計、鏡、舟、百合などの物が夜を越えて反復し、連作として響き合います。
夏目漱石(1867〜1916年)です。
初出は朝日新聞、1908(明治41)年7月25日〜8月5日連載です。
著作権の保護期間が満了した作品で、青空文庫で原文を無料で読めます。このページの「青空文庫・原作情報」から図書カードへ移動できます。漫画は原作をもとにした翻案のため、台詞や構成が原文と異なる部分があります。
全10話・248ページで、通して読むと約75分が目安です(1ページ18秒で計算)。1話ずつ区切って読めます。
夢見手は女の墓のそばで日の出と日の入りを数え続けますが、なかなか百年は来ません。やがて墓の下から青い茎が伸びて真っ白な百合が咲き、その花びらに口づけしたとき、遠い空に暁の星が瞬きます。夢見手は「百年はもう来ていたんだな」と気づくのでした。
運慶は木の中に埋まっている仁王を掘り出しているだけだ、と聞いた夢見手は、自分も仁王を彫ろうとしますが、どの木にも仁王は埋まっていませんでした。明治の木には到底仁王は埋まっていないのだと悟り、運慶が今日まで生きている理由も分かったと結ばれます。
原文・底本・校正情報を作品ごとに記録します。